アウェイの洗礼@2004

既に廃刊になった雑誌ですが、2004年6月に「月刊REDS系」という月刊誌に寄稿したことがあります。稿料数千円で(笑)。いまさらながら、その内容を公開してみたり。
 
FC東京サポからの手紙」という形式で書いてくださいと言われて書いたものです。この頃のレッズっていったら超がつく程のお得意さんで、2001年の初対戦からずっと無敗。試合の流れがどんなに悪くても、何となく勝っちゃうみたいなカモ中のカモというイメージ。超アウェイの中で彼等が沈黙するのを眺めるのは実に快感なのでありました。ところが、ちょうどこの2004年を境に対戦成績はグルリと逆転してしまいました。明日の試合では久々に大勝利といきたいものです。
 
以下、当時の寄稿内容全文。

                      • -

 
FC東京サポからの手紙
アウェイの洗礼

 
6月とは思えない強烈な日差しがアスファルトを照りつけ、東京は午前中には既に30度を超えていた。青赤のマフラーを身にまとい、汗だくの額を拭いながら街を出る。冷房の効きすぎた電車を乗り継いで、向かうは敵地埼玉スタジアム。1stステージ最終節、もはや優勝争いには関係ないとはいえ両チームともに勝てば3位の可能性を残し、サポーターの鼻息も荒い。 なにより、我々にとってずっとカモにしてきた浦和に負けるなんてことは決して許されないのだ。
浦和レッズとの対戦はいつも本当に楽しみにしている。特にアウェイで感じるあの独特の雰囲気はすんごい。駒場スタジアムのビジター席(出島)における何とも形容しがたい緊迫感や、埼玉スタジアムでの270度5万人の赤い大パノラマの圧倒的な迫力は、Jリーグでは浦和サポーターにしか出せないものだろう。我々を威圧するかのような統率された応援が、終始ピッチにこだましてスタジアムを飲み込んでいく。普段はやんちゃな東京サポーターの応援の数々も、ここでは巨大な赤いパワーの前にかき消されてしまう。残念ながら、その事実は認めざるを得ない。ところが、我々にとってはその居心地の悪さが時には快感でもあり、決して負けたくはないという強い気持ちを持たせるのである。浦和サポーターの大声援を、我がチームの奮闘により沈黙に変える。胸のすく気持ちよさがそこにはある。そして、あの居心地の悪さの中で得る勝利の喜びというものは本当に格別なのだ。逆に負ければあの集団が一斉に歓喜に包まれることになり、普段の何倍も凹まされることになるのだが。
浦和サポーターの皆さんが東京サポーターをいけ好かないと思っている事は、よくわかっている(笑)。「何故あんなに応援が下品なのか?」とか「いつも調子に乗りやがって!」とかね。東京サポーターは、勝敗にはもちろんこだわるけれど、それと共に応援で選手を乗せようということを常に考えている。体の中にはフットボールを「粋」に「いなせ」に楽しもうという何かが流れているのだ。熱い応援を送りながら、誰もがピッチ上の選手たちの攻防戦に見入り、まるでJ1昇格直後の「しっかり守って一瞬のカウンターでゴールを陥れる」というチーム戦術に例えるように、勝負どころでの渾身のコールで雰囲気を一変させるということを得意にしている。また、スタジアムに流れる「空気」や共有する「時間」というものを、とても大切にそして愉しみにしている集団でもある。フットボールは笑顔と共に。
それが故に、時には相手サポーターの心の奥に触れるようなキツイ「洒落」をスタジアムに向けて発信してしまうこともあるのが特徴だ。応援スタイルの違う浦和サポーターの皆さんにはその辺の機微は理解しがたいところなのかも知れないが。そのスタイルの違いが衝突してしまったのが、初対戦となった2001年の出島事件である。東京サポーターのコールに不快感を覚えた浦和サポーターが、試合終了後に出島を取り囲んで監禁行為に及んでしまったあの事件は、以後お互いのサポーターの存在を強烈に意識させることになる。確かに東京サポーターもやりすぎだったかも知れないが、ある意味ではそれがお互いの最高の出発点であったとも言えるのではないだろうか。あれが無ければ、これ程までにサポーター同士が意識しあうことは無かっただろうし、因縁の対決ととらえられるようなこともなかっただろう。
まあ、決して口には出さないけれど、あなたたちの作り出すその雰囲気をとても羨ましく思ったりしていることも事実。 あの迫力は他チームのサポーターの追随を許さないものがあるし、心の中でリスペクトしつつも、これからもどんどんけん制しあっていきたい。正直参考にすべき点は多々あるけれど、東京サポーターは江戸っ子らしく粋やいなせにこだわりたいので、浦和サポーターの選んだ道とはきっと違う道を歩いていくことになると思う。でも、それは「フットボール」を、そして「おらが街のクラブ」を愛する者同士、決して平行線ではないと信じている。平行線で無い限り、出会いもするし別れもするものだ。願わくば、あなたたちが未だ体験したことのない本格的なアウェイの洗礼というものを、いつの日か味の素スタジアムで味あわせてやりたい。そして、お互いに馴れ合いにならずに、いい意味で殺伐としたムードを保っていきたいと思う。 これからもどうぞお手柔らかに。
 
追伸:リーグ戦における初勝利の美酒は、さぞかし美味しかったことでしょうな。
 
月刊REDS系 2004年8月号掲載